2007年9月8日掲載
Sonny Rollins     A Night Village Vanguard
Blue Note原盤     1957年11月録音

 購入したLP・CDは、売らないようにしております。その時にはピンとこない作品でも、将来は好きになるかもしれないとの、思いからです。そんな僕にも、購入したLPを売っていた時期が、数ヶ月ありました。それは、LPからCDに移行していた時期であり、過去の名盤が続々とCD化されていた時期でもあります。1980年代後半のこと。20枚ほど売ったかと、記憶しております。今振り返れば、本当に後悔しております。

 そんな後悔の中に、ソニー・ロリンズがブルー・ノートに残した傑作ライブ「A Night Village Vanguard」があります。BN1581で発売されたこのライブは、1970年代になって、未発表曲を2枚組みLPとして発売されました。1980年代初めにキングから東芝EMIにBNの国内販売権利が移り、行方氏が1500番台を番号順に発売するという快挙を行いました。ジャケットは、ビニール・コーティング。そして、「A Night Village Vanguard」は、第2集,第3集と単独作品で、勿論ビニール・コーティングされて発売されたのです。丁度この時期がジャズ聴き始めだった僕は、当然の流れとして、ビニール・コーティングされた3枚を購入していたのです。

 さて1980年代後半に過去の名盤が続々とCD化され、この傑作ライブも、2枚に分かれて発売されました。愛聴盤だったこの作品がCD化されたのですから、当然購入。そしてその時期は、LPを売っていた時期。ビニール・コーティングされた3枚は、渋谷ジャロさんの中古盤コーナーに置かれたのでした。今となったらと、この件を後悔しております。


 本作品はトリオでの演奏です。ロリンズは、この1957年には、多彩な活動を行っておりました。その中には、西海岸の巨匠とトリオで吹き込んだ「Way Out West」があります。それから半年経ってNYでのこのライブには、ドナルド・ベイリー(b)とピート・ラロカ(d)で昼の部を演奏。そしてウィルバー・ウェア(b)とエルヴィン・ジョーンズ(d)で夜の部が演奏されました。

20070908

 国内盤の解説を書いているのは、油井氏です。「この1957年以降(この解説を書いた1988年まで)、ロリンズ以上のアドリブ・プレーヤーは出ていない」,「1957年秋は、ロリンズがアドリブの頂点を極めた時代」と書いております。これへの同意は人それぞれでしょうけど、このヴァンガードでの演奏はジャズの歴史の中でも、スリリングなアドリブが飛び散った演奏として光り輝くものであることは、誰でも同意することでしょう。

 さて本盤には、昼のセットから2曲、夜のセットから5曲収録されています。ロリンズのディスコ・グラフィによれば、昼のセットでは5曲演奏されている模様です。その中で、録音として残っているのが2曲ということになるのでしょう。そして夜のセットでは、20曲演奏されたことになっており、本盤と後で取上げる2集とで12曲の録音が残っております。恐らく夜の部は、2~3セット行われたのでしょう。

 さて、本盤に注目しましょう。「チュニジアの夜」が、昼夜の両セットで演奏されております。ここでの聴き比べからの感想は、豪放なロリンズの姿を残しながら、アドリブを追求しているのが昼の部。ひたすらアドリブの深みを一糸乱れずに追求したのが、夜の部という感じです。油井氏の表現では、「行書」の昼の部、「草書」の夜の部となっております。さてこの「チュニジアの夜」ですが、オリジナル盤に収録されたのは、昼の部の演奏です。昼の部の演奏は、豪放さとアドリブの追及が絶妙にブレンドされております。またドナルド・ベイリー(b)とピート・ラロカ(d)とは慣れ親しんだ仲だったようで、まとまりも良し。片や夜の部は、ウィルバー・ウェア(b)とエルヴィン・ジョーンズ(d)との最初の演奏曲だったようで、まとまり具合が少し引っ掛かるところ。その意味では、「昼の部」の採用は、当然のところと言えます。

 さて夜の部ですが、演奏が進むに従って、良くなっていきます。とくにこの1集に収録されている最後の「オールド・デヴィル・ムーン」では、3人の一体感が絶頂を迎えています。オリジナル盤では、この曲がA面1曲目に収録されています。この1集での夜の部5曲の楽しみ方の一つは、トリオの息が曲毎に合っていく光景であります。