2004年8月1日掲載
Nina Simone      At Town Hall
Colpix原盤      1959年9月録音

 有名なのに作品を持っていないミュージュシャンは結構おり、女性黒人ヴォーカリストのニーナ・シモンさんも、そんな方の一人です。というよりかは、持っている気分になっていたのです。特に今日取り上げる彼女の出世作は、絶対に持っていると思っていた。ジャズ聴き始めのころに、廉価盤か中古で、兎に角LPで、買ったものだと思っていた。このコーナーの初期には、持っているLPを積極的に取り上げていましたが、そんな際にニーナ・シモンも取り上げようと思い、必死に探したけど見つからなかったのです。

 亡くなったのは、昨春のこと。そして今春、3社共同企画よりColpix,Phillips,RCAと彼女の輝いていた時代の作品が、一挙に紙ジャケで再発されました。バックがコンボの作品だけを選び、渋谷ジャロさんに発注したのです。最初に取り上げる作品は、白ずくめの衣装の彼女が実に印象的なジャケットである、タウン・ホールでのライブ盤です。

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 ニーナはクラシック・ピアノを勉強していた。しかし黒人であるがゆえに、クラシック界での演奏機会が望めずに、別の音楽の道に進んだのだ。それは、弾き語りである。
 多くのヴォーカリストがそうであるように、ジャズとポピュラーの区別がなかなか難しい。そんな中でニーナの場合は、ブルースやフォークをも吸収しており、ジャンル分けは更に難しい。
 しかし、それは無意味なのであろう。ニーナの世界が、はっきりと築かれているからだ。そのニーナの歌の世界を表現しようと思っているが、なかなか書けない。十分な歌唱力と技量なのであるが、それを自慢げに出さないのが素晴らしい。彼女の歌の世界の魅力については、これから紹介していく他の作品への感想で書いていきたい。弾き語りなので、ニーナにはピアニストとしての魅力がある。クラシックを勉強していたのだから、早弾きや華麗なフレージングを聴かせる技量は十分にありのだろう。しかし、それを全く出さない。でも、魅力的なピアノだ。ジャマル風と言った感じかな。そんな弾き語りの魅力で、いろんなタイプの曲を歌っているコンサートである。白眉は、ピアノ・トリオの演奏から歌へ展開していく「サマー・タイム」かな。それとも殆どアカペラで歌っている「ブラック・イズ・ザ・カラー・オブ・マイ・トゥルー・ラブズ・ヘア」か。ピアノ・トリオだけで披露された「アンダー・ザ・ロウエスト」も、魅力的なリズムを提供している。どれを取っていっても、貫禄を感じさせる内容である。しかし、彼女自身にとっては、このタウン・ホールのステージは、初の大舞台なのだ。それまではベツレヘムからヒット曲も出しており、またライブ・ハウスでも人気があったが、ジャズの世界の話だった。初のこの舞台で貫禄すら示した理由として、ニーナは伝記で次にように述べている。一つには、クラシックの先生から舞台での立居振舞を聞かされていたこと。また、ライブ・ハウスの経験で、観衆をどのように把握するかを心得ていたことだそうだ。このコンサートでの成功はマスコミでも大きく取り上げられ、ニーナは一躍有名人の仲間入りを果たしたのだった。