2020年7月10日掲載
Wes Montgomery            In The Beginning
Resonance原盤                1956年8月録音

 1959年にリバーサイドと契約して世に出てからのギター奏者ウエス・モンゴメリーは、ジャズ・ファン誰もが知る存在です。そんな時代のウエスの作品群の中には、私がまだ耳にしたことのない作品が何枚もあります。

 私の最後の海外駐在となるのであろう二度目のマレーシア駐在から帰任して、かなり時間を有効に使えるようになっていた2014年に、今日取り上げるウエスの未発表録音CD2枚組が発売されました。私には Verve や A&M のウェスの諸作を買うのが先だろうとも考えながら、この未発表CD2枚組は入手すべきとの強烈な予感を感じたのでした。その前に世に出ていた未発表作品「Echoes Of Indiana Avenue」すら買っていないのに、自分の嗅覚を信じて本作品を購入したのでした。

 1959年にリバーサイドから世に出る前のウエスは、地元インディアナポリスで兄弟たちと演奏活動を行なっていました。本作品の1枚目には1956年のインディアナポリスのクラブでの8月と11月の演奏、更には9月の妹宅での演奏が収録されています。2枚目には、1958年のインディアナポリスでの演奏、1955年のNYのコロンビア・スタジオでの録音、1957年のシカゴでのライブ、そして1949年のSP盤で世に出た演奏が収録されています。

 結構厚い解説が封入されているのですが、そこにある本作のプロデューサーのセヴ・フェルドマンの発掘過程の記述が、興味深いものでした。始まりはセヴが「Echoes Of Indiana Avenue」を制作していた2011年に、ウエスの子息であり遺産管理団体代表のロバートからの電話を受けたところから始まります。それはウエスの弟が保管していたテープの件であり、これをアルバム化する過程でケニー・ワシントンからコロンビア録音の情報を得て、さらには1949年のSP盤の存在を知る場面まで続きます。このSP盤は超がいくつもつくマイナー・レーベルのスパイア・レコードから1949年にひっそりと世に出ていたもので、アメリカ議会図書館にすら所蔵されていないものです。この音源を入手する過程は、インターネットの世でなければ実現しないものでした。

 さて、聴いてみます。

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 やはり1枚目に収録されている、インディアナポリスにあるターフ・クラブでの1956年のライブ演奏が、本作品の中心でしょう。ただしウエスはあくまでバンドの一員なので、サックスが主役の演奏曲もあれば、歌入もありますが、それでもウエスのストレートな思いを感じられる、瑞々しいウエスのギターを楽しめるものです。

 封入解説のビル・ミルコウスキの文には、「録音当時のウエスにはすでに溢れるようなイマジネーションと技量が備わっていることが歴然と判る。しかし、専売特許であるソロ・スタイル、つまりシングルノートのコーラスからオクターブ奏法へ、そしてコードで締めくくるオーケストラ的展開が確立されていないことが判る」とあります。

 そんな時期のウエスだからこそ、ハードバップの熱気をこめた演奏となっているのでしょう。

 またセヴ・フェルドマンの文章には、「ウエスが後年、英国人ジャーナリスト、ヴァレリー・ウィルマーに語っているように、この当時こそが彼の演奏の絶頂期である」とあります。

 どの時期が絶頂期なのかは別にして、この時期のウエスの演奏は素敵な要素が詰まっている時期だと、この作品を聴いて感じ入った次第です。