1999年10月25日掲載
David Muray      Tenors
DIW原盤        1988年1月録音

 まだあったのです。マイルスのマラソン・セッションが4枚で終ったので、マレイも4枚で終りか と思ってましたら、5枚目が録音から5年経って発売されたのです。その内容は偉大なテナー・マンに捧げたものになっています。コルトレーンはアトランティック時代に 録音した“equinox”、魂に訴える演奏が忘れられないアイラーの“ghosts”、テナーも素晴らしいとマレイが言っているらしいオーネット・コールマンの未発表曲 “perfection”、ベン・ウェブスターとポール・ゴンザルべスの名演で有名なエリン トン楽団の“chelsea bridge”、ロリンズの“St.Thomas”、そしてバレルのオリジナル が収められています。このような内容からして、録音当初から企画されていたと考えるのが普通でしょうけど、録音から5年後の発売というのが少し気になりますかね。

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 ビリー・ストレイホーン作の“chelsea bridge” が、静かな演奏ながらベンとゴンザルべスへの愛情が感じられる出来になっています。マレイは1986年吹込みのThe Hill でもトリオでこの曲を演奏しており、その思い入れが分かりますね。で、一番の出来と言えばですね、バレル作の“Over time”です。これは バレルが1979年に作り上げたジャズ・オペラのウィンワード・パッセージの中の主題曲の一つプナル・ピーターを改題したものです。アップ・テンポで演奏されるテーマは、バレルの作曲能力の高さを存分に感じさせる熱情的なものです。テナーとピアノでテーマが演奏された後マレイのソロが続き、ベースのソロが、他の楽器が殆どオフになっている中で続いていきます。太い音のベースに小さな音でバレルがテーマを合わせていき、その ピアノの音が徐々に上がっていく様子は、実にスリリングですよ。再びテナーソロに続き、ドラムとの8バースを挟んで演奏が終了する10分間は、至極のものです。この作品が1988年1月のマラソン・セッションから発売される最後のものですが、恐らくは未発表曲があることでしょう。これだけ充実した5枚の作品なのですから、いつの日や未発表曲を聴けることを望みます。