Walter Bishop Jr.
Just in time

録音日 1988年9月10日(ジャケ記載データ)
Just In Time が収録されている作品をつまみ食い

つまみ食い前

 この作品は本当によく売れました。ただし私が知っていることは、日本で世界で何枚売れたかではありません。ジャズ聴き始めの時から通っている、渋谷にあるジャズディスク専門店でのことです。狭い店内ですので、店主と常連が「あのビショップの新譜は良かったね」というような話は、すぐに他のお客さんの耳にも入り、この連鎖反応がこの店での好セールスに繋がってる行ったのです。

 当時はまだレコードとCDとの2媒体で発売するのが、主流でした。そしてその時の流行りだったのか、本作はレコードとCDで収録曲を若干入れ替えて発売されていたのです。そして渋谷のお店では、レコードとCD、両方を買う人が多かったのです。ジャケットが違うのも、1つの要因だったのかもしれません。私もそんな一人でした。

 1999年11月14日に本作を「今日の1枚」で取り上げた際には、レコードのモノクロジャケを掲載しました。CDは青と黒が印象的なジャケであります。

そんな思い出たっぷりの本作を、タイトル曲である「Just In Time」を中心に聴いて見ます。

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つまみ食い後

 制作会社代表であり本作をプロデュースした妙中氏が、封入解説を書いています。それを括弧書きで引用しながら、感想を書きます。

「スピークロウはビショップの最初のリーダー作でありよく売れた作品だが、取り立ててイノヴェイティブでもないが人気盤になった。単にストレートにスウィングしているだけなのが、案外いい結果を産んだのではないだろうか」

 この”単”に というのが、難しいのでは。何かひねりを加えたいとの思いになり、ボケたピアノトリオ作品になってしまうのが多い中で、「単にストレートにスウィングしているだけ」とは難しいことなのではと、私は思います。そこには確かな技量としっかりした個性がなければ成立しないことなのでしょう。

 その後に妙中氏は、ビショップが1960年代後半に作曲法を学んだことが「このコンセプトがストレートにスウィングする彼の表現方法を崩し始めた」「それらは2枚のブラック・ジャズ・レーベルのアルバムに聞かれる」と述べています。

 この部分についての私の感想は、いずれ取り上げるブラック・ジャズ・レーベルの作品の時に書きたいと思います。

 その後の本作制作の経緯について妙中氏のコメントを要約して書きます。「平凡な作品に終わっていた1970年代のミューズ時代、そして1980年代に入ってもビショップのレコーディングは聞けなかった」「そんな折、友人のフレッド・ノースウォーシー氏から電話があり、ジャズ・フェスでのビショップの評判が良かった。ビショップのアルバムを作るべしとノースウォーシー氏から勧められた」とのことです。何かの縁が本作制作に結びついたのでしょう。

 「10年ぶりの新作アルバムはほとんどビショップのお気に入りの曲を選んだわけだが、内容は27年後にしてスピーク・ロウを超えた」

 超えたかどうかは別にして、ビショップの代表作、そしてピアノトリオの代表作の1枚が誕生したことに、強く同感します。

 「(Just In Timeについて) なんのてらいもなくスウィングするこんなビショップが聞きたかったのだ」、本当にその通りです。30年前の渋谷のジャズディスク専門店で本作に心引かれた常連客は、まさにこの思いだったのでしょう。

(掲示板掲載 2018年6月12日から3日間)