19650610-06

Transition (John Coltrane)  (15分31秒)



【この曲、この演奏】

 この曲名での演奏記録はこのセッションだけ(資料07)だけですが、資料09には「ワン・アップ・アンド・ダウンが原曲のコルトレーンのオリジナルで、アドリブ・フレーズがそのままテーマとなったようなスリリングなテーマを持つ曲である」とあります。また資料07によれば、パラマウントのセッションログではこの曲は、「Crescent 3」と書かれているそうです。

 さて演奏ですが、コルトレーンがこの年の春からスタジオで取り組んできた「早口まくしたて型」演奏の集大成と呼ぶべきものでしょう。テナー・サックスが中心のカルテットで4分、ピアノ・トリオで3分半、再びカルテットで8分ほどの演奏となっています。

 これまでの取り組みの暴れっぷりは控えめにし、その分だけ深みが増した演奏です。またエルヴィンがバッキングを強く意識している姿、特にピアノ・トリオでのそれは興味深いものでした。

 二度目のカルテットでの演奏での中盤、30秒ほどコルトレーンが悲痛なまでの叫びを上げる姿は、コルトレーンのこれからの二年間に繋がっていくようなものです。



【エピソード、ジョー・ゴールドバーグの著書から その11】

 1965年に刊行されたジョー・ゴールドバーグの著書「Jazz Masters Of The Fifties」の中の、コルトレーンに関する思慮に富んだ文章の日本語訳が資料04にあるので、数回に分けて掲載する。


 この純粋な音楽への思いはよく分かる。家庭で楽しむための音楽であったジャズは、誰でも参加することができたのだ。だが、今日のジャズ・ミュージシャンの多くは、ある側面においてオーケストラの演奏者をもしのいでいる。ジャズはヴァーチュオーゾの音楽となった。技巧から始まり、技巧から発展する音楽に。だが、コルトレーンの興味の対象は技巧的側面にとどまらない。彼は、自分の音楽に、本人いわく”強烈な感情”を内包させようとしているのだ。

 こうした感情のいくつかは、コルトレーンの自作曲の中に見られる。コードを捨て、メロディの演奏に目覚めた今、彼はどの曲も物足りないと感じ、自ら曲を書き始めるに至った。創作欲ではなく必要性に駆られて。ある晩、ジャズ・ギャラリーに出演中、コルトレーンは無題の新曲(今では「ビック・ニック」と題された)をお披露目した。シンプルでチャーミングな曲だったが、すぐに数人のオーディエンスが口笛を吹き始めた。コルトレーンはその反応が信じられなかった。「なぜ彼らは口笛を吹き始めたのか、その理由を知りたい」とコルトレーンは戸惑いぎみに言った。「恐らく私の曲のせいなんだろう」。彼の曲のいくつかは、とても親しみやすい。「ブルー・トレイン」は彼の作曲の典型だ。また彼のブルース曲には一九三〇年代風の懐古的なラインを持つものがある。



【ついでにフォト】

tp13055-110

2013年 みなとみらい


(2021年7月15日掲載)